Microsoft社 CEOのサティア・ナデラ氏は、2023年1月、「ChatGPT」の運営会社であるOpenAIと100憶ドルを投資する交渉に入った。
一方、OpenAIの経営は赤字状態で、収益を得る術が現時点ではないとされている。
それでもなぜ、Microsoft社等の大手ソフトウェア企業や複数の投資家たちは、OpenAIに投資するのだろうか。
ChatGPTを手掛けるOpenAIとは
OpenAIは、2015年末に米シリコンバレーで、「AIがすべての人類に利益をもたらす」ことを目的として設立された非営利団体である。
その設立には、Tesla社CEOのイーロン・マスク氏(2018年2月以降から、同氏はOpenAIの経営から撤退している)や、かつてY Combinatorの代表を務めたサム・アルトマン氏をはじめとする、シリコンバレーの著名な投資家たちが関わっている。
OpenAIはスタートアップのベンチャー企業であるため、投資家たちの出資をベースにAIアルゴリズムに関する独自の研究を今日まで継続している。
特に、Microsoft社からは2019年と2021年にそれぞれ10億ドルの出資があり、Microsoft社とOpenAIは、今後のAIシステムの共同開発も視野に入れた提携を拡大するため、2023年1月には「複数年にわたり数十億ドル投資」を行う交渉に入っている。
“AI”という最先端事業に携わるOpenAIは潤沢な資金を呼び込むことができたが、どのように資金繰り(マネタイズ)を行っているのだろうか。
OpenAIの収益性と経営戦略
OpenAIも多くのスタートアップのベンチャー企業と同様に、現在収益を上げることができず、赤字経営の状態である。
OpenAIが開発したテキストから画像を生成するAIモデルDALL-E2の画像は1枚数セントで購入することができるとされており、収益源の一つである。
DALL-E2も当初は無料で提供されていたが、2022年9月から有料化に踏み切り、ここからサブスクリプション料として収益化できるようになった。
また、2022年11月末に無料サービスの提供が始まったChatGPTにおいても有料化が決定し、今後は有料版「ChatGPT Plus」として提供される。
ChatGPT Plusのサブスクリプション料は月額20ドル(現時点では、米国利用者)となる予定である(但し、無料版ChatGPTも、継続して提供される予定)。
これらサービスのサブスクリプション料が収益源になるとは言え、AIシステムの運用コストが非常に高額であるが故に、今後も経営陣にとっては厳しい舵取りが要求される。
OpenAIのサム・アルトマンCEOはTwitterで「ChatGPTの運営には、計算能力として、1チャット数セントのコストがかかる。どこかの段階で有料にしなければならない」と述べており、有料版への意思を明確にしている。
さらに、OpenAIはサービス拡大に向けて様々なオプションプランを検討しており、今後の戦略として無料サービスの提供から有料サービスへのシフトチェンジを目指していることがうかがえる。
このようにOpenAIはサービスの有料化や、今後発表されるChatGPT Plusのようなプレミアム製品のリリース等を軸に2023年末には2億ドルの収益を見込んでいるが、これまでの数十億の投資額に比べるとわずかとしか言いようがなく、赤字経営からの脱却は当面は厳しいと感じる。
Microsoft社によるOpenAIの黒字転換
現在、Microsoft社は100億ドルの投資を条件に、ChatGPTの一部機能をインターネットの検索エンジン「Bing」に組み込もうとしている。
Bingもアルファベットのグーグル検索と同様に、広告での収益がある。
つまり、Microsoft社はChatGPTのAIシステムを用いたインターネット検索で、より多くの利用者を獲得し、広告収益のさらなる向上につなげたいと考えているようだ。
さらに、DALL-E2やChatGPTのようなツールも、Microsoft社の現行ソフトウェアに追加したい意向があることを考慮すると、その用途は無限に広がる。
Microsoft社にとっては、これらの可能性がOpenAIの経営を黒字に転換できるという目論見なのかもしれない。
様々な方面でのChatGPT使用禁止
しかし、良い側面ばかりではない。世界中でChatGPTが使われている中、稀に不正確な回答が出るといった不具合も報告されており、一部の米教育局やAI国際学会等でChatGPTの使用を禁止する動きがでてきている。
AI国際学会(ICML)の対応
例えば、AI国際学会(ICML)が発表した「学術論文執筆で“ChatGPT”と“AI言語ツール”の使用を禁じる」といった報道である。
ICMLの本方針に対しては、多くのAI学者や研究者たちから擁護や批判の声が上がっている。
ICMLはChatGPTの使用について、「刺激的な発展を意味するものの予測せぬ結果や未解決の問題を伴う」と述べており、今後さらなる検討を進めるとしている。
多くの組織及び団体での混乱
また、ChatGPTのようなAIツールが簡単に利用できるようになったことで、多くの組織及び団体が混乱しているのも事実である。
例えば、昨年、コーディングQ&AサイトのStack Overflowでは、ChatGPTで簡単に作成された不正確なテキストがサイトに多く投稿される状況になった。
サイト上での品質維持管理の観点から、Stack Overflowは「ChatGPTで作成されたコンテンツの共有を一時的に禁止する」と発表した。
さらに、ニューヨーク市教育局は「学生の学習に対する悪影響やコンテンツの安全性に対する懸念」を述べており、学校オンラインシステムからChatGPTへのアクセスを制限している。
OpenAIが認める不安要素
「ChatGPT」等のAIシステムが出力するデータは、実際は「誰」に属するものなのか。
これらのシステムでは、ネット上で同意なしに収集された公共データからAIシステムが学習し、その情報をそのまま利用者に提供する場合もあるとしている。
ChatGPTは応答に使用した情報(出所・ソース元)に関するコンテキストを提供していない。
OpenAIは、ツールの応答は「不正確な場合があり、正確なものとして信用すべきではない」と認めている。
ChatGPTの運用に向けて、まだたくさんの解決すべき課題が残っている。
OpenAIが安定した収益を得るには、もうしばらく時間がかかるのではないだろうか。
しかし、今後のAIシステムの発展やOpenAIの成長を考慮すると、投資家たちにとっては魅力的なサービス及び技術なのだろう。
【その他参考記事】
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